【映画】『クライ・ベイビー』から “50年代” ファッションを学ぶ。

予告編

【映画】『クライ・ベイビー』は、カルト映画の巨匠、ジョン・ウォーターズによるミュージカルコメディです。

ハリウッドを代表するスター、ジョニー・デップの映画初主演作としても有名なこの映画は、

ジョン・ウォーターズ作品ではお馴染みのクセ強めの常連俳優達が脇を固める他、伝説のロックミュージシャン、イギー・ポップや元ポルノスター、トレイシー・ローズが出演したことでも話題になりました。

1950年代のアメリカで流行した様々なファッションを見ることができます。

では、この作品に登場するファッションについて5つのキーワードで見ていきましょう!

目次

作品情報

引用元:Ⓒ 1990 Universal City Studios, Inc & Imagine Films. All Rights Reserved.

基本情報

邦題クライ・ベイビー
原題Cry-Baby
上映時間85分
公開年1990年
製作国アメリカ
監督ジョン・ウォーターズ
脚本ジョン・ウォーターズ
衣装デザインヴァン・スミス
出演ジョニー・デップ
エイミー・ロケイン
スーザン・ティレル
ポリー・バーゲン
イギー・ポップ
リッキー・レイク
トレイシー・ローズ
ウィレム・デフォー
トロイ・ドナヒュー
ジョーイ・ヘザートン
ジョー・ダレッサンドロ
パトリシア・ハースト
ミンク・ストール
デヴィッド・ネルソン
ダーレン・E・バロウズ
スティーヴン・メイラー

あらすじ

1954年、ロックンロール黎明期のアメリカ ボルチモアのとある高校。ジョニー・デップ演じる不良グループのリーダーで、ロックンロールとバイクをこよなく愛するクライ・ベイビーは、同じ高校に通う学校一のお嬢様アリソンと出会い、お互いに一瞬で恋に落ちます。

祖母によって、堅苦しい社交界での生活を強いられていたアリソンは、クライ・ベイビーのクールで自由奔放な生き方に魅力を感じ、クライ・ベイビーも上品で美しいアリソンに心奪われました。

正反対の境遇である二人ですが、幼い頃に両親を亡くしたという共通点もあり、恋の炎は、よりいっそう燃え上がり、彼と一緒になることを決意するアリソンでしたが、彼女の育ての親である祖母や元カレなどの上流階級の人間達は、彼女を何とかクライ・ベイビーから遠ざけようとします。

この物語は、クライ・ベイビーとアリソンが、彼らを取り巻く社会の偏見や差別に立ち向かい、自分たちの愛を貫く過程を描いたミュージカルコメディで
す。

ファッション解説

不良の象徴 “ライダース

作中、主人公であるクライ・ベイビー および 不良仲間達は、多くの場面で黒のライダースジャケットを着用していますが、これは映画の舞台である1950年代当時のアメリカで流行していた “バイカーズ” と呼ばれる暴走族の典型的なスタイルです。

黒のダブルライダースジャケットにジーンズ、Tシャツ、エンジニアブーツに身を包みバイクを乗り回す姿に多くの若者が憧れ、このスタイルはその後のファッション史に絶大な影響を与え続けています。

そんな”バイカーズ” スタイルに欠かせないライダースジャケットの歴史は1913年、ニューヨークで生まれたレインコート工場 Schott(ショット)に始まります。

創業者であるアーヴィンとジャックのショット兄弟が1928年に世界初のフロントジッパーを採用したライダースジャケット“Perfecto(パーフェクト)”シリーズを発売。

これまでは、ボタン開閉式のタイプが主流だったライダースジャケットに革命を起こしました。

この作品の時代設定である1954年の1年前、伝説の映画「 乱暴者 (原題 : The Wild One) 」が公開されます。

名優マーロン・ブランド演じるバイカーの主人公ジョニーは、50年代にSchottが発表した星型のスタッズがトレードマークのダブルライダース”ワンスター”モデルを着用したといわれていて、Schottの名を世界に知らしめました。

ただし、この件に関しては公式記録が残っていないそうで 本当はSchott社製ではなく Durable (デュラブル) 社製の “ワンスター” だという説もあり、今でも議論の的となっています。

しかし、映画の中で、マーロン・ブランドが残した強烈な印象により “ライダース=不良のアイテム” というイメージが確立されたことには間違いありません。

そんな歴史を持つダブルライダースですが、クライ・ベイビーの作中では、不良仲間の男の子のみならず女の子達もペンシルスカートなどと合わせてクールに着こなしています。

ペンシルスカートとは、鉛筆のように細長く身体にフィットしたスカートのことで、無骨なライダースとのコーディネートで、よりセクシーさが際立っています。

“ジーンズ” 労働着からファッションアイテムへ

クライ・ベイビーおよび、不良グループの男の子達は、多くの場面で “ジーンズ” を穿いています。

“ジーンズ” は、現在、年齢性別問わず世界中で愛されるファッションアイテムですが、その歴史は古く、1850年代頃まで遡ります。

ゴールドラッシュに沸くアメリカ西部、丈夫な労働用ズボンを求める声が高まっていました。

そこで、仕立て屋のジェイコブ・デイビスと、当時、生地商でリーバイスの創始者であるリーバイ・ストラウスが共同で、丈夫なデニム生地を使用し、銅製のリベットで補強したズボンを1873年に開発しました。

このズボンが、 “ジーンズ” と呼ばれるようになり、おもに金鉱採掘者や農夫の間で労働着として広く普及します。

その後、この作品の時代設定である1950年代に “ジーンズ” は大きな転換期を迎えます。

1953年に公開された、先述の映画「 乱暴者 (原題 : The Wild One) 」で暴走族のリーダーを演じた主演のマーロン・ブランドが。

続けて1955年公開の映画「理由なき反抗 (原題 : Rebel Without a Cause) 」では、行き場のない怒りを抱える若者を演じた主演のジェームズ・ディーンが、それぞれ作中で “ジーンズ” を穿いたことにより、

“ジーンズ” は、社会や大人への不満を持つ若者を象徴するアイテムとなり、若者を中心に普段着のアイテムとして浸透して行きます。

また、作中でクライ・ベイビーは刑務所に入れられてしまうのですが、その際、囚人服としてジーンズが登場します。

アメリカの囚人服といえば黒と白のボーダー柄が有名で、19世紀以降、恥辱の印や脱走時に目立つことを目的に長く採用されていて、このタイプの囚人服も作中、登場します。

しかし、20世紀初頭には、受刑者を処罰するよりも更生させるべきだという方針に変わった結果、誠実な労働が受刑者たちを誠実な市民に変えるという考えのもと、ジーンズを代表とする労働着が囚人服として導入されます。

1950年代には、囚人服としてジーンズにシャンブレーのワークシャツを使用することが標準的で、今日でも一部の刑務所ではその伝統が続いているそうです。

アメリカン・トラッドの原点 “アイビー・スタイル”

クライ・ベイビーと敵対する上流階級のお坊ちゃまグループの男の子たちは、アイビー・スタイルのファッションを着こなしています。

アイビー・スタイル( Ivy style )とは、1950年代後半に米国北東部で誕生した紳士服のスタイルです。

アイビー・リーグ ( Ivy League )と呼ばれるアメリカ北東部にある8つの私立大学からなるフットボール連盟に所属するエリート学生たちが好んで着用したファッションで、1955年に国際衣料デザイナー協会がアイビー・スタイルと名づけました。

一流大学に通う裕福な学生たちから生まれたスタイルだけあって、基本的に上品でクリーンなスタイルですが、カジュアルでスポーティな側面もあります。

アイビー・スタイルのアイテムは多岐にわたりますが代表的なものとしては、ペニーローファー、オックスフォード生地のボタンダウンシャツ、ブレザー、スクールカラーのレジメンタルタイ、チノパン、通っている大学の校章やロゴがあしらわれたカーディガンやセーター、スウェットなどスポーティなアイテムも多く挙げられます。

作中でも、アリソンの元カレであるはボールドウィンは、七三分けで前髪をアップしたすっきりとしたヘアスタイルにオックスフォード生地のドレスシャツ、スポーツ・ジャケット、チノパン、スウィングトップなど、アイビー・スタイルのアイテムを多く身につけています。

ちなみにアイビー ( ivy ) とは、植物のツタのことで、 アイビー・リーグに所属する大学の多くが、ツタ ( ivy ) に覆われた古いレンガ造りの校舎がであったことに由来しているそうで、由緒正しい歴史ある名門校にふさわしい呼び名です。

現代でも時代を越えて長く愛されているアメリカン・トラッドの原点 “アイビー・スタイル”を見ることができます。

麗しの “カプリ・パンツ”

作中、ヒロインのアリソンや、不良グループの女の子たちが、穿いているのパンツは “カプリ・パンツ” ( capri pants ) と呼ばれるもので、膝下からふくらはぎくらいまでの丈の細身でぴったりしたパンツです。

ちょうど、この映画の舞台である1950年代に流行したアイテムで、ドイツのファッションデザイナーであるソーニャ・デ・レナート( Sonja de Lennart )が 1948 年に発明し、イギリスのクチュリエ、バニー・ロジャー ( Bunny Roger ) によって広められたと言われていて、カプリという名称はイタリアのリゾート地カプリ島に由来しています。

当時、人気のハリウッド女優オードリー・ヘップバーンが、1954年公開の映画「 麗しのサブリナ 」で着用したことでたちまち大流行し、映画のタイトルから別名、サブリナ・パンツと呼ばれるほどでした。サブリナ・パンツはカプリ・パンツよりも、ややゆったりとしたシルエット
で丈も若干長めなのが特徴です。

ただ、流行したとはいえ 1950年代当時、女性が公の場でタイトなパンツを着用することに関して、まだまだ受け入れられなかった時代だったようで「クライ・ベイビー」作中でも、不良女子のファッションの代名詞としてカプリ・パンツが挙げられ、”お股が裂けそうなほどピッチリしていて下品である” というような表現がされています。

そんな時代に先駆けて、フランスの女優ブリジット・バルドーはカプリ・パンツの愛用者で、特に海辺のリゾートで過ごす際に好んで着用していたそうです。

また、1950年代から1960年代初頭にかけてセックスシンボルとして人気を博したアメリカの女優マリリン・モンローもトラベルウェアとしてカプリ・パンツを愛用していたそうで、その他にも多くの人気女優たちが着用したことによって一般にも普及していきます。

セクシーな “ウィグル・ドレス”

作中、1950年代に流行した ウィグル・ドレス ( Wiggle Dress ) というアイテムがたびたび登場します。

中でもクライ・ベイビーの仲間であるワンダのウィグル・ドレスの着こなしは、まさに50年代のバッドガールスタイルそのものです。
ベティ・ペイジ風に短く切り揃えたブロンド・ヘア、跳ね上げた猫目アイライン、真っ赤なリップ、ピンヒールのミュールが、よりセクシーさを際立たせています。

ウィグル・ドレス ( Wiggle Dress ) とは、身体にフィットした細身のドレスで、丈は通常、膝からふくらはぎの中央まで。ヒップよりも裾の方が細くなるデザインのため歩きづらく、着用者は小さな歩幅で腰を振りながらWiggle (小刻みにくねくね) 歩くことになります。

その動きとタイトなシルエットにより、砂時計型の女性らしいボディラインを強調し、セクシーさを演出できるアイテムとして1940年代から1950年代にかけて人気が高まりましたが、1960年代後半からウーマン・リブと呼ばれる女性解放運動の勢いが増し始めると、解放とは真逆の、女性の動きを制限するウィグル・ドレスは、時代遅れとなりました。

ウィグル・ドレスには様々なタイプがあり、袖やネックのデザインもバリエーションが多く、あきの位置に関しても前開きのボタンで開け閉めするタイプもあれば、後ろにジッパーが付いているタイプもあります。ただ、いずれにしてもボディラインはタイトで、女性らしい砂時計型のシルエットを強調したデザインで、よりウエストを強調するために幅広のベルトでウエストマークすることが多かったようです。

作中でも、様々なタイプのウィグル・ドレスを見ることができます。

まとめ

以上、【映画】『 クライ・ベイビー 』のあらすじと登場するファッションについてご紹介しました。

ジョン・ウォーターズ監督といえば、過激で悪趣味な代表作「ピンク・フラミンゴ」ですが、
こちらの作品は、悪趣味なエッセンスを盛り込みつつもエンターテイメントとして楽しめる作品になっています。

ポップでレトロなファッションはもちろん、1950年代に生まれた様々な文化が盛り込まれているおもちゃ箱のような作品で、
ドゥーワップ、ロカビリーなど当時のヒット曲や素晴らしいオリジナルソングと共にノスタルジーを感じられます。

まだ見たことが無い方はぜひ! また、すでに見たことがある方も、あらためて見返してみてはいかがでしょうか?

最後まで読んでくれてありがとうございました!

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